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定食屋おろポン

おろしポン酢と青ネギはかけ放題です

すてきじゃない金縛り

知らない土地へ

しとしとと雨が降る中、家を出て、駅に向かって歩く。いつも通る道。見慣れた光景。しかし、なぜかその日は道を間違えた。曲がるべき道を曲がらず、曲がるべきでない道を曲がった。なぜだかはわからない。そのまま歩き続けた。
駅へ向かわなければならないのに、知らない道をただまっすぐに進んだ。雨が降ってはいるものの、小雨で空も明るく、足取りはむしろ軽かった。
通勤時間帯だからか、ひっきりなしに車が行き交っている。そのなかでも大きなトラックが目を引く。ガタガタと地面を揺らしながら、何台もの大型トラックが僕の横を通りすぎていく。一体何を運んでいるんだろうか。
足の向かうままに、そのまましばらく歩いていたが、いつまでも知らない道を散歩してはいられない。iPhoneで地図を見よう。僕は道路脇で立ち止まった。

トンネルと太鼓

iPhoneを取り出したは良いが、雨が降っているのでこのままでは濡らしてしまう。僕はちょっとの間、雨宿りをしようと周りを見渡した。
すると、道路の左に小さなトンネルがある。なんとも都合がいい。中に入って地図を確認しようとトンネルを覗き込んだ。しかし、様子がおかしい。何年も使われていないように見える祭具がトンネルの中央においてあった。トンネルだけれども、通れないのだ。なんだか勝手に入るのが躊躇われたので、他の雨宿り場所を探そうと外に出る。すると、入口脇に立派な和太鼓がおいてあった。こんなものあったかな、と思いつつ、和太鼓を雨よけにしてiPhoneを操作しようと思い立った。
和太鼓の影でiPhoneの地図を開いた。が、そのとき雨と風が急に強くなってきた。iPhoneの表面にいくつも水滴がつく。僕は慌ててポケットにしまった。

神社とテント

道路の左側は、他に雨宿りができそうな場所が見当たらない。僕は道路を渡った。
雨風は強くなる一方だ。雨粒が頬を打つようになってきた。空を見あげると、ねずみ色の重たい雲がずっと広がっている。急ぎ足で雨よけを探す。
道の途中、小さな神社の横を通り過ぎた。そして、足を止めた。神社の横には数十メートルの開けた空き地があり、そこにお祭りや運動会などで見かける三角屋根のテントが3つ張ってある。大きいテントがひとつ、その傍に、小さなテントがふたつ。大きなテントには、並んだ机に向かって、地元の人が10人ほど座っている。なにかのお祭りだろうか?しかし、よそ者に興味がないのか、僕がすぐ近くを通っても目を合わせようともしない。机には「お汁粉あります。」と書いてある紙が一枚貼ってあるだけ。僕は小さなテントに目をつけた。ふたつの小さなテントは使われておらず、誰もいないのだ。ちょっと雨宿りがてら入るくらい、構わないだろう。僕はテントの片方におじゃまして、一息ついた。

子供

テントにはさすがに雨も入ってこない。ようやく地図を確認できる、とポケットからiPhoneを取り出そうとした時、子供が二人やってきた。小学2年生くらいの男の子と女の子、おそらく大きいテントに詰めている誰かの子供だろう。
その、見知らぬ子供は僕の顔を見るなり、「ねえ、ゲームをしようよ」と話しかけてきた。
「ねえお兄ちゃん、ゲームしようよ、ゲーム」
「そうだよ、ゲームしよう」
―「どんなゲーム?」
「何がいいかなあ」
「○○ゲームしよう」(○○は失念)
「そうだね、○○ゲームしよう。」
―「○○ゲームって?」
「あのね、両手でOKマーク作ってね、それを○○って言いながらゆするの」
「ほら、やってみてよ」
僕は、それはやってはいけないことだ、と肌で感じた。おそらく、古くからこの地に住んできた人々で、伝承や風習が未だに語り継がれているのだろう。なにを意味するのかわからない「おまじない」を、試しにやってみるのは怖かった。
―「それは、ちょっと嫌かなあ」
「それなら、○○さんやろうよ」(こちらも失念。舘島?)
「うん、○○さんやろう。」
○○さん…というからには、こっくりさんの亜種だろう。いつの時代もああいうものは流行るのだな。こっくりさんくらいなら、構わないだろう。僕は子供たちの提案を受け入れた。
―「へえ、○○さんはどうやるの?」
「両手とも、手を狗にするの」(と、親指、中指、薬指をくっつけてみせる)
「そしたらね、○○って唱えながら前後に動かすの」
僕は、その手の形を「狐さん」だと思っていたが、ここでは狗を表すらしい。どうも○○ゲームと趣が似ていたが、僕は言われるままの動きをしてみせた。
「そうだよ、そうやるの!」
「おにいちゃん、ヘタだなあ、それじゃあんまり狗に見えないよー」
せっかくやってみせたのに、駄目出しされる。苦笑いしながら、「次はどうするの?」と聞こうと思ったが、何かがオカシイ。
子供の首から下が、全く見えなくなっていた。首だけ見える。首だけ浮いているように見える。
それに気づいた瞬間、僕は金縛りに遭った。マブタさえ動かせなくなっていた。
子供たちは笑いながら言う。
「おにいちゃん、首だけじゃん」
「手足、どうしたの?」
そして、僕の顔を蹴る。笑いながら蹴る。
オカシイ。なぜ子供が僕の顔を蹴ることができる?子供たちは首から下がないのに、なぜ?僕のほうが背が高いのに、なぜ?
そして気付く。
首から下がなくなっていたのは、僕の方だった。
子供たちは、首から下が見えなくなっていただけだった。なくなってはいなかった。
僕の首から下は、なくなっていた。
首だけの僕は、子供に蹴られながら必死に考えた。「○○さん」って言うのは、きっとゲームだ。「○○さん」を始めたから、世界がおかしくなった。だから、「○○さん」を終わらせないといけない。
金縛りの中、必死に声をあげた。
「○○さん、終わり」
と。
僕は目が覚めた。

戻らぬ手

自分の部屋で目が覚める。なんて嫌な夢を見たんだろう。今何時だろう。憔悴した顔つきのまま、ズルズルと体を起こした。
自分の手が、なかった。
布団を叩いてみる。顔に触ってみる。そこに手は存在した。しかし、全く見えない。両手とも、見えない。
途方に暮れた。夢からはもう覚めたのに、ゲームは終わっていないのか。嘘だ、そんなことあるわけない。さっきのゲームだって、夢の中の出来事であって、現実にはありえないことだ。
ここはいつもの自分の部屋で、いつもの布団で、机やドアがあって、間違いなく現実だ。腕が見えなくなるなんて、寝ぼけているだけだ。でも、どうしたらいいんだろう。
そこでようやく、ひとつのことに思い当たる。
「これ、まだ夢なんじゃないか?」
夢の世界は、それが夢であると自覚した瞬間に崩壊する。僕は、もう一度目を覚ました。

あとがき

実話です。夢の中の話を実話といっていいのかわからないけど、本当に見た夢です。今日の昼すぎに。
僕はよく金縛りに遭うのですが、夢の中で金縛りにあったのは初めてです。また、夢を現実と勘違いしてしまうのも初めてです。
ああ、怖かった。せっかく寝たのに、金縛りに遭うと疲れが取れるどころか溜まるので困ります。